Vol.06

博報堂DYアイ・オー 合理的配慮への取り組み

さまざまな取り組みの意図を超えて「便利」「快適」が広がっています
  • 経営計画管理室 管理課
    ダイバシティ推進チーム
    精神保健福祉士
    國富隆志(精神障害)


    精神障害・発達障害のある社員および所属部署へのサポート、メンタルヘルス不調者へのサポート業務に携わり、メンタルヘルス領域をメインとした相談対応や情報提供を行う。
  • 経営計画管理室
    計画課 採用チーム
    玉野寿佳


    主に、採用・人事・人材開発業務を担当。新卒学生に向けたオープンカンパニーの運営にも携わる。
  • 経営計画管理室
    計画課 採用チーム チーフ
    坪井 裕 (上肢下肢障害)


    入社後、名刺作成業務に携わり、育児休暇を経て現部署に所属。
    主に、採用・人事・広報業務に携わる。一児の父親。

一人ひとりの障害を多様性の一部としてとらえ、必要な合理的配慮を取り入れている博報堂DYアイ・オー。障害のある社員が気持ちよく働けるよう導入した取り組みやツールが、副次的にほかの社員にもメリットとなっています。そのような事例について3人の社員にお伺いしました。
(取材/ライター 浜田祐子)

01 バリアフリー環境は誰にでも動きやすく、居心地よく

坪井さんは上肢下肢障害がありますが、どのような配慮を受けているのでしょうか?

坪井さん
私は車椅子を使っているのですが、車椅子ユーザーは人によって使用している車椅子のサイズや種類が異なります。車椅子の座面が高い位置にあったり、その人の体格などにより通常のオフィスデスクだと下に足が入らないこともあるんです。その場合、少しデスクの高さを上げなくてはいけません。
そんな不便さを解消するために高さの調整できる「昇降機能付きデスク」を会社が導入してくれています。昇降機能付きデスクは数台あり、車椅子の社員にも使いやすく、健常者の社員でも腰の痛い人などが立って仕事ができるということで快適に利用できているんですよね。実際は腰痛持ちの社員の方が活用しているかもしれません(笑)。
玉野さん
私も使っています。ずっと同じ姿勢で座ったままデスクワークを続けていると足にむくみが生じることもあるんです。そんな時に昇降機能付きデスクを使って立って仕事をすると、立ったり座ったり調整できるので助かります。
車椅子を使っている社員のために導入されたデスクですが、私のように座りっぱなしでいるのが辛い人もいますし、そんな社員には障害の有無を問わず長時間の作業の負担が軽減されていますね。
  • デスクの写真
    デスクの高さを調整できる昇降機能付きデスク
  • デスクワークの様子
    立ちながらデスクワークを行う社員も
坪井さん
他にもオフィスの入り口は自動ドアで、IDカードをかざすだけで開閉するようになっているので便利です。執務室は通路の幅が広くてゆったりしていて、段差のないフラットな床になっているので車椅子で移動しやすいですね。
そのほか障害者用トイレや車椅子ユーザーも使いやすい背の低いキャビネットがあり、バリアフリーの面でさまざまな配慮がなされています。車で通勤ができるのも便利ですね。
國富さん
広い通路と自動ドア、段差のないフロアは視覚障害のある社員にとってももちろん便利です。
バリアフリーを目的として配慮されている空間ですが、社員みんなにとって居心地よく働きやすい環境だと思います。ゆったりとしていて密接している感じもなく、社内を見渡せるような印象で気持ちにもゆとりが生まれます。明るい雰囲気になっていますね。
  • 通路の写真
    車椅子が通りやすい広い通路
  • 自動ドアの写真
    入口付近に設置されている自動ドア

いま在籍する車椅子ユーザーの方は既存のデスクで不便がないとのことで、昇降機能付きデスクを使っているのはむしろ腰痛のある健常者の方だそうです。障害の有無にとらわれず、その時々で必要な人が利用する柔軟さも働きやすさにつながっているのではと感じています。

「広い空間」や「自動ドア」。誰にとってもユニバーサルなこの環境もコストがかかることですから、ステークホルダーから導入・維持の理解を得るために尽力されてきたそうです。職場環境に必要なことは会社の意思で継続され、結果的にみなさんの気持ちのゆとりを生み出しているのが素晴らしいと思います。

02 情報保障という目的を超えて豊かなコミュニケーションを築く

博報堂DYアイ・オーには聴覚障害社員が約50名在籍されているとのことですが、その環境からの影響はありますか?

國富さん
我が社では「情報保障」という言葉がよく使われています。本来得られる情報を保障するという意味です。社内では情報を伝える際に「見ておきなさい」と投げっぱなしにするのではなく、必要な情報を必要な人に届ける意識が高いです。
聴覚障害の社員のために「UDトーク」という音声認識アプリを、また視覚障害のある社員のためには音声読み上げソフトを導入するなど、すべての人に情報が等しく行き渡るように配慮されています。
玉野さん
UDトークは聴覚障害のある社員のための情報保障として導入されましたが、一部の発達障害の方にも便利に感じられることがわかりました。耳で聴く話に集中し続けることが難しい特性の方にとっては、音声が変換された文章を同時に見ることにより、聴き漏らしたりメモを取り忘れることもなく、しっかり情報を受け取ることができるそうです。
健常者にとっても耳と目で同じ情報を得ることでより集中したり、聞き逃した情報を後で見返すこともできる。UDトークは当初の意図を超えて聴覚障害者だけではなく多くの人にとって便利なツールになり得るんですね。

※UDトークとは「音声認識+音声合成」機能を使い、聴覚障害者がリアルタイムで音声を文字で認識できるアプリです。1対1の会話から多人数の会議まで、オンラインでもオフラインでも活用できます。

  • 手話の様子
    アイ・オーでは手話も使用言語の1つに
  • UDトークの写真
    音声認識アプリのUDトーク
坪井さん
健聴者社員や聴覚障害のある社員への情報保障として会議や研修の際には外部の手話通訳士の方を手配し、すべての情報をきちんとやり取りできるようにしています。
社内では手話もコミュニケーションの手段のひとつとなっていて、健聴者も勉強会などで手話を学べます。普段の仕事や雑談などの日常会話についてはメールや筆談も使いますが、手話でやりとりするケースが多いです。
私は上肢の障害で手指を動かせないので、いつも手話通訳士の方にお世話になっています。
玉野さん
面接にいらした方が、社員同士がみんな手話で会話をしているのを見て驚かれることもあります。
今はオンラインで面接や採用試験をすることも多く、問題が起きたときには映らないところで声を出さずに手話を使って対処することもあり、そんなときにも手話でコミュニケーションできるのは便利だと感じています。普段も取引先と電話しながら、同僚に手話で指示や連絡ができるので初動も早くなりますね。

アプリや手話が、なくてはならないコミュニケーションの手段・言語としてなじんでいるのですね。聴覚障害のある方との会話だけでなく、健聴者同士でも必要な場面において手話を使われていること、健聴者の方々も手話での会話がスムーズにできることに感心します。これだけ社内で手話が浸透しているのは、聴覚障害のある方と健聴者とが日々コミュニケーションを重ね、チームとして業務に励むことが、社員にとっての日常となっているからでしょう。また外部から手話通訳士の方を手配されているのも細やかな配慮だと感じます。そのような柔軟性が「ダイバシティ・インクルージョン」を実現する背景のひとつなのでしょう。

03 誰もが相談できるメンタル面のサポートにより安心感を

他にも取り組みやツールの導入によって生まれた副次的なメリットはありますか?

國富さん
私は精神保健福祉士の資格を持っているので、精神障害・発達障害のある方へのサポートを行っています。振り返りの面談を行い、ストレスが蓄積しないように対応したり、働き甲斐を持って長く勤務してもらえるよう努めています。
また、社員のみなさんのメンタルヘルスに関わる相談の対応も行っています。「話をしていい場所があるんだ」と安心感を持ってもらえるよう心がけています。
玉野さん
國富さんは社員みんなにとっても何かあったら頼れる存在です。私自身も、仕事で悩んでいたことを國富さんに相談した経験があり、話せてすっきりしました(笑)。相談しやすい雰囲気を作ってくださっているのでありがたいです。
國冨さん、玉野さん、坪井さんの写真

國富さんのご担当範囲について当初は「精神・発達障害の方のサポート」だったそうですが、自然な流れでその対象が全社員に広がっていったそうです。障害者はサポートされる人・健常者はサポートする人と決まっているわけではなく、その時々でニーズのある人にサポートを提供する。あたりまえのようでいて、一般的にはなかなかそうしにくい状況があるかもしれません。それが副次的に広がっていったことにも博報堂DYアイ・オーらしい魅力を感じました。

特定の障害への配慮として導入された取り組みやツールが、意図を超えて副次的な効果となり、ほかの障害のある社員や健常者にとっても便利さや快適さをもたらしている事例をご紹介しました。今後も多様性が広がるとともに、さらにこうした事例が生まれる可能性があるのではと思います。
そしてこれからも博報堂DYアイ・オーは変化に対応しながら新しい取り組みやツールを導入し、多くの人の働きやすい環境を創り続けていくことでしょう。